以前の職場に、「アンドレ」という30代半ばくらいの白人男性がいた。
アンドレとは言っても日本生まれの日本育ちらしく、普通に日本語をしゃべり、独特の外国人訛り的なイントネーションも全くなかった。
だけどハーフではなく純粋な白人100%なので、ビジュアルに関しては完全なアメリカ人だった。
そんな彼が、猫背に頭を下げて
「あっ、おつかれっス」
などと言ってくる違和感。
我々が普段、何気なくやっている言動を白人がやるだけでこんなにも滑稽な画になるものなのか。
というか我々日本人はこんなにも滑稽な言動が似合ってしまう人種だったのか。
「ちょっと待ってくださいよォ」と苦笑いを浮かべるアンドレ。
電話の相手に頭を下げながらしゃべるアンドレ。
おにぎりの海苔が前歯についているアンドレ。
日本人がやればそうでもない、というか普通のことが、アンドレがやるとことごとく滑稽なのだ。
対象から離れてみることで逆に浮き彫りになってくる本質。
我々は自らが染まっているために日本人の様々な「ココがヘンだよ」に気が付かない。
自分達が小さすぎて地球が丸いのがわからないように。
アンドレはそんなことに気付かせてくれた。
しかし一番の問題は、アンドレがNOVAに通って駅前留学していたということである。
何ということか。青い目のサムライは、いっぱい聞けていっぱいしゃべれる所を選んでしまったのだ。
困惑するほかの生徒や先生、一方で先生と間違われて困惑するアンドレの姿が目に浮かぶ。
というか、アンドレは普段からしょっちゅう困惑したような表情を見せていた。
そして勤務開始から二週間もしないうちにどこかへ消えてしまった。
どうやら仕事内容がその白い肌には合わなかったようだ。
職場で起きたアンドレ、バックレ、雲隠レ事件。迷宮入りしたまま時効を迎えた。
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