9月14日(日) 9:00
台風一過ですごいいい天気。
八時に起きる予定だったがちょっと寝坊した。出発の準備をしているところに宿主のおばちゃんがやってきて僕にお菓子をくれた。
ハスカップが入ったケーキらしい。
その名も「ユキドゥル」。
しばらくして今度は宿主のじいさんがやってきた。じいさんはちょっと耳が遠かった。少し世間話をした後、じいさんはおもむろに座布団と碁石を持ってきた。
「じゃあね、記念に手品を見せてあげるから。」
この人はいつもこうやって宿に泊まった人に手品を見せているらしい。握った碁石が左手から右手に移るというやつで、タネはまるわかりだったが、気分を悪くしないように
「はぁ〜、すごいっすね〜!」 などと感動したフリをする。
僕は大人だ。
すると今度は 「じゃあ今からこの手品を教えてあげるから、覚えて帰りなさい。」 と言ってきた。早く出発したいのだがレッスンに付き合う。碁石を投げたり拾ったりすること10分、じいさんは言う。「これで君はこの先もずっと大丈夫だから。」
何が大丈夫なんだろう。
こんな感じの愉快なおじいさんであった。最後に記念ということで、書道もたしなむというじいさんの作品をくれた。
「馬」である。
僕に書道の心得はないのでこの作品がどうなのかはわからないが、なかなか立派じゃないか。こういう普段は接しない人とのふれあいも旅の一つの魅力である。
裏に書いてあったこれは何なんでしょう。

9月14日(日) 9:40
二日目の宿を紹介しよう。
「ルート38・カニの家」
見ての通りかなり年季は入っているが、トイレも洗面所もついてるし宿泊費も800円。初日に比べたらだいぶいい。
なんせちゃんと窓が閉まる。
部屋の中。
部屋は20畳くらいのが二つ+女性部屋(仕切られてはいない)でけっこう広かった。しかし事実上一人だったためこの広さも孤独を強調する結果となる。
行ってみたいなオッパイ山。
洗面所。
ちょっと暗くてわかりづらいが、かなり強烈である。でも今回はずっとこんな感じだったので今後どこででも生活できる自信がついた。こうして人はたくましくなっていくんですね。
自分で自分に目を細めてみた。

9月14日(土) 10:20
天気はいいのだが風の強さが尋常じゃない。
この日は釧路に行って、さらにその後摩周湖まで足を伸ばす予定だ。まずは釧路を目指して海岸沿いの道をひた走る。笑っちゃうくらい波が高い。

釧路に着いたのは12時半。金がけっこう底をついてきたので昼食はすでにコンビにおにぎりになっている。このあたりのことについては何も調べてなかったので釧路に住んでる友達を呼び出して案内してもらうことにする。
友達が来るまで釧路市街をぶらつく。
停泊していた漁船。
いかにも漁業の街らしい、なかなかのどかな風景である。
斜面に作られた花時計。
その友達から 「天気予報のお天気カメラとかでよく映る花時計」 などと言われたが、残念ながら天気予報の釧路の映像など全く興味がなく見てないので全然わからない。
橋のところにあった像。
タイトルは 「冬」。
冬だというのにこの人はこんな素っ裸で何をしているのだろう。

9月14日(日) 14:00
友達と合流し、釧路湿原へ向かう。
天気がいいので遠くまで見渡すことができる。運がよければ鶴も見ることができるという。鶴って冬に来るんじゃなかったっけ?
湿原の展望台にきました。
なかなかの絶景である。本州の人が思い浮かべる北海道の景色ってこんなんなんだろうなあ。一面緑だ。
展望台を出て鶴がいるというスポットに向かう。本当に鶴なんかいるのだろうか?僕は半信半疑だった。「大丈夫大丈夫」 友達は言うが、親に電話で場所を聞いたりしていてちょっと心もとない。
しばらくして窓の外を指して 「あっ、鶴いたよ!」 と叫ぶ友達。しかし近づいてみるとそれはかかしだった。
やはりというか、結局鶴には会えず。

9月14日(日) 15:10
こうも何もないとこばかり走ってると普段の生活を完全に忘れてしまいそうだ。
友達と別れ、摩周湖へ向かう。「霧の摩周湖」である。霧が立ち込めてることが多く、なかなかはっきり拝むことはできないという。この日はどうだろう?日が翳らないうちに着きたいので急ぎ気味で。
地図と青カンを頼りに車を走らせる。ただ、青カンの英語表記に 「Lake Mashyuko」 と書いてあるのはどうだろう。レイクマシューコ、訳すと
【摩周湖湖】 だ。なんでこんな 「頭痛が痛い」 的なことになってしまったんだろう。
四時過ぎに摩周湖に到着。見事に晴れて湖全体をバッチリ一望することができる。ラッキーだ。
しかしここでデジカメのバッテリーが切れるハプニング。
せっかく来たのにこれはあまりにも痛すぎる。仕方なく携帯のカメラで撮ってみるがやっぱりさえない。悔しいので売店のねえちゃんに充電させてもらえないか頼んでみる。
「あっ、いいですよ。」 思いのほかあっさりOKされた。
それを受けて車から充電器を持ってくる。だが、てっきり奥の方でやってくれるのかと思ったら玄関の公衆電話の脇にあるコンセントを使えという。
公衆電話の横になぜか充電器。周りの人の視線を感じるが気にしない。
おかげで無事にデジカメ復活。
「晴れた摩周湖を見ると晩婚」 という迷信は気にしない。晩婚上等。

9月14日(日) 18:00
摩周湖を出て中標津町に到着。
一応中心部らしきとこにたどり着いたのだが、初日の新冠町に次ぐ閑散さにおののく。
とりあえず付近の温泉を探る。養老牛温泉というのがあるというので行ってみることにする。街灯もない山道を行く。僕の車は100km以上で走っていたのだが、他の車にガンガン抜かれていく。この町はみんなどうかしてるんじゃないか。
そうすること30分。着いた。着いたことは着いた。
「本日は満室のため日帰り入浴はお断り。」
温泉旅館の表に出ていた張り紙である。なんということだ。他の旅館にも行ってみたが同じような張り紙が貼ってある。がっくりうなだれる僕。
でもダメでもともと、中に入って聞いてみる。ロビーで呼び鈴を鳴らすと中から渡辺えり子似のおばさんが出てきた。
「あの〜、今日って日帰り入浴やってないんですか?」
「すいませ〜ん、今日はちょっといっぱいなんでやってないんですよ〜。」
「AH・・・」
思わずメリケン的な絶句の仕方をしてしまった。周辺にはもう旅館はない。このままあきらめて帰るしかないのか?
「・・・何名ですか?」
「あ、はあ一人ですけど」
「そうですか・・・わかりました、じゃあいいですよ」
「マジっすか?!」
なんと、旅館の人のご好意で特別に入浴できることになった。感動のあまり渡辺えり子が渡辺満理奈に見えてきた、ということはなかったが、ちょっとした心遣いに救われた。ありがとう、えり子。
身も心も温まった帰り道、真っ暗な山の中、星がとてもきれいに見えた。

9月14日(日) 20:25
なんだかんだ言って最後の夜。
温泉に入って癒されたのも束の間、僕はこの旅最大の危機に襲われていた。予定していた宿に電話をしたところ、こう言われたのである。
「あ〜、うち辞めちゃったんだわ」
おいおい冗談だろ。
というわけでプリントアウトしていた宿のリストを慌てて調べ、中標津内の宿に片っ端から連絡してみる。でもどこもこの時期はやってないとか今からじゃ入れないとかいう答えだった。僕はいよいよ焦ってきた。
数十分後、コンビニの前に座っておにぎりを食べながら途方にくれてる僕がいた。
仕方なくコンビニの電話帳を使って安そうな宿を片っ端から当たってみる。どこも答えは芳しくない。でもそうすること数件目、ようやく泊まれる所が見つかった。あやうく見知らぬ町で野宿、なんてことになりそうだったのでホント安心した。
宿についた頃には完全に体が冷え切ってたのは言うまでもない。
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