9月12日(金) 17:00
最初の目的地、新冠に到着。
競走馬の産地で数多くの牧場がある。ここでの目当てはナリタブライアン記念館だったのだが、営業時間の16:30までに間に合わなかったため、仕方なくここで宿泊して次の日に行くことにする。
本当は9時くらいに出発して昼過ぎに到着、一通り見学を済ませて襟裳岬を回り帯広まで行くつもりだったのだが、出発が昼過ぎになったために早くも大幅なズレが生じることになってしまった。
仕方なく宿を探す。
一泊1000円のライダーハウス、「ブルートレイン」 というとこに泊まることにした。行ってみてそのボロさに愕然とする。本当に廃電車の車両がポコンと置いてあるだけなのだ。
思わずブルーになるトレインということなのか。
中に入ってみる。想像以上にボロっちい。「落書きOK」 らしく、壁、天井、至るところに過去の宿泊客のメッセージが残されている。
個室があるというので行ってみる。入口のふすまを開けるといきなりガタンと外れた。コントか。中はむちゃくちゃ狭く、投げやりな感じで裸電球がぶら下がってる。そして明らかに半開きのまま固まってびくともしない窓。
しかし、どこかこの状況を楽しんでニヤニヤしてる自分がいる。
ライダーハウス「ブルートレイン」
ブルートレイン内部
個室内部
この状況をよりリアルに楽しみたい方は動画でどうぞ。個室内部(6.9MB)

9月12日(金) 17:40
ブルートレインの中を一通り見てあることに気付く。
洗面所はともかく、トイレも見当たらないのだ。管理人に聞いてみる。(管理人は隣にある家に住んでいた。)
「ああ、小さい方は裏の草むらで、大きい方したくなったら近くに道の駅があるからそこでやんな。」
これで1000円は高えって。
さてさて、宿が決まったのはいいがやることがない。とりあえず飯を食って温泉に入りに行くことにする。まず、町の中心部に行って食事のできる店を探す。
中心部、とはいってもせいぜい幅200mほどで、飲食店も4、5店しかなかった。その中のごくごく普通の食堂みたいなとこに入ってみた。
とりあえず注文。千葉真一とマイク真木を足してカナヅチで割ったような店主が食事を作る。おかみさんはニュースを見ながら
「はぁ〜」 とか 「へぇ〜」 とか言っている。
そこに近所のおばさんらしき人が入ってきた。
「なすび見てきたの〜。」 「あ〜、そっかい。人参はどうだった?」
入ってくるなりおかみさんとそんなような話を数分しておばさんは出て行った。しばらくしたら茄子がいっぱい入った段ボールを持って帰ってきた。一本50cmくらいある化け物みたいな茄子だ。その大きさに度肝を抜かれる。
おかみさんはそのおばさんと話をしながらその茄子を焼き始めた。何のためらいもなく客の前で店の厨房を使い自分らの食事を作っている。
僕の注文を料理し終えた店主は別の男性客と 「商工会議所がどうこう」 とか 「ダムの水が溢れてどうこう」 とかいう話をしてる。焼きあがった茄子を男性客とおばさんに振舞うおかみさん。
なんか僕の周りですごくローカルな空気が流れている。

9月12日(金) 18:30
飯も食ったし温泉に入ってくるか。
近くにある 「レコードの湯」 に行く。まだ新しくきれいな施設で、特に客に対する細かい心配りが考えられているのが伺えて非常に快適であった。
体を洗い、露天風呂に行く。ここもなかなか広くきれいで、かなりいいじゃないか。海も見えて見晴らしもいいし。
だが、なぜか露天風呂の中で腹筋をしているじいさんがいる。
しかも起き上がったときに上半身を左右にひねる本格的なやつだ。そこにいるのは僕とそのじいさんだけ。非常に気まずい。しかもそのじいさんのおかげで露天風呂に波が立って顔にペシャペシャかかるのだ。
でもじいさんは僕の存在を全く気にせず腹筋を続ける。というか他の客が入ってきても動じることなく続けていた。そして他の客達も特に気にする様子も無く普通に湯に浸かっている。
逆にここまで来るとあれは僕にしか見えてないんじゃないかとすら思えてくる。

9月12日(金) 21:10
さてさて、本当にやることがない。

新冠町、そこは競走馬以外ホント何にもない町。人影は皆無。この時間には店も全部閉まっている。というか人口建造物自体がまばらである。
とりあえず周辺を見て回ることにする。
メロディー大橋というとこに着いた。
「大橋」 というが、キャンプ場とかにありそうな感じのしょぼい橋だった。あたりはし〜んと静まり返り、真っ暗。そんな中、一人で橋を渡る僕。そしてちょうど橋の真ん中まで来たその時だった。
「か〜ら〜す〜♪なぜなくの〜♪」
橋から突然童謡が流れ出した。それまで静まり返ってただけにかなりびっくりした。まさか本当にメロディー大橋だったとは。
橋の真ん中にセンサーが付いていて、そこに人が通ると音がなる仕組みになっていたようだ。僕がその場を立ち去った後もまだ童謡は流れている。ちょっと不気味な光景であった。
次に、岬の方に行ってみようと車を走らせる。
一応、地図を頼りに進んでいったのだが、くねくねと細い道をたどってるうちに訳がわからなくなり、気がつくと墓地に迷い込んでいた。
しかも間違って車道じゃないところに進入してしまい、墓石がバンパーの先数センチのところまで迫っている。危うく供物をなぎ倒すところであった。
なんかすごいバチあたりな事をしている。慌ててバックして逃げるようにして帰ってきた。
早くも初日から一人相撲をとりまくっている。

9月12日(金) 22:30
宿に帰ってきました。
ライダーハウスというのは素泊まり、雑魚寝でいろんな旅行者が部屋を共有して泊まるもので、僕もそういう交流を楽しみにしていた。
ところが、この晩の宿泊は僕一人だった。
この空間にポツンと一人。
交流というか、どちらかというと拘留に近い。
結局、一人でビールを飲みながらニュースステーションを見たり、特命係長を見たりしている。そこに旅の情緒は微塵も感じられない。
12時を回り、次の日も早いので寝ることにする。部屋の中にあったゴルゴ13を手にとって寝袋に入る。旅の宿でゴルゴ13を読みながら寝る旅人。
ゴルゴは女を買ってでっかいベッドで寝ていた。僕はあばら家で寝袋に納まっている。閉まらない窓からは夜風が入り込む。
ゴルゴよりも苛酷な環境で眠りにつこうとしている僕。
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