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TRAVEL NOTES (OKINAWA?)
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 西日本・沖縄縦断バイク3000キロの旅・二日目


4月30日(日) 6:00

起床。意外にも身体はすっきりしていて疲れは残っていない。

この日の宿は琵琶湖の西岸に位置していた。そこで、東、琵琶湖の対岸から昇る朝日なんかを拝んでやろう。そんなつもりでこんなに早く起きた。普段仕事に行く時は到底ムリだが、こういう時はビシッと起きられる。

どんより曇った琵琶湖 だが、表に出たら見事なまでの曇り空。

二日目も出だしから順調につまづいている。

朝冷えする中、湖畔に座り、どんより淀んだ琵琶湖をぼんやり眺める。カッコーの声も聞こえてこないし、鳥人間も飛んでいない。目の前にある日本一大きな水溜りを、僕は何も考えず、ただただぼんやりと眺めていた。

周りを見ると、こんな時期にもうテントを張ってキャンプをしている人たちがいる。しかも複数。寒くないのだろうか。でもこんな所でキャンプしたら気持ちよさそうだ。

僕も気持ちよい旅行がしたい。

しばらく静かな朝の雰囲気を満喫して(まあ満喫というよりお見舞いされたといった感じだが)、部屋に戻って荷造りを始めた。昨日の反省から、この日は早め早めの行動を心がけていた。

7時過ぎには宿を出発。コンビニで朝食を買い、駐車場で食べながら地図で今日のルートを確認。

この日の最終目的地は広島。初日に比べれば交通量の多い所もないだろうし、距離的にもだいぶ楽だろう。ので、昨日はできなかった観光もちゃんとできるだろう。

そう、勝手に思い込んでいた。

だが、改めて見てみると、滋賀から広島までの距離は東京から滋賀までの距離と大差がなかった。というかほとんど一緒だ。誰だ、楽だなんて言ったのは。僕だ。

そもそも、この日の行路は(実は初日もそうだが)滋賀を出発して、福井、京都、兵庫、鳥取、岡山、広島と 「七つの県を股にかける」 ジョニー・デップも真っ青、というか失笑のセブンシーズなものだった。

まあ、彼らが行ったのは航海、僕が犯したのは後悔なのだが。違いはそこである。
パイレーツ・オブ・カラブリアン。

僕は無言でバイクにまたがった。


4月30日(日) 12:40

人が小っちゃい またも予定より押し気味で鳥取砂丘に到着。

相変わらずの強風と寒さに震えながらバイクを走らせること四時間半。海辺に、普通の砂浜とは明らかに違う白い砂の絨毯が見えてきたときは、思わず感動して声を上げてしまった。

すごい。こんなものが日本にあるってのがすごい。3万年〜10万年もの時間をかけて積み上げられた、砂の、砂の、…何だこれは。

申し訳ない、うまい表現が思いつかなかった。つまり、言葉を失うくらいすごい、まあそういうことです。

そんな中に入れば人間なんて本当に小さいものだ。遠めに眺めると本当に人のあまりの小ささに笑える。五穀米みたいだもの。

さっそく僕も裸足になって砂丘に足を踏み入れる。

ズブズブ、ズブズブ。程よく熱くなった砂の感触が気持ちいい。ズブズブ、ズブズブ、しかしやはり歩きにくい。とりあえず丘を登って海を拝もうと思ったが、実際に歩を進めてみると思ったよりも距離がある。まずそこに行くまでが大変だった。

そうしてやっとのことで丘のふもとまで来た。近くで見上げるとかなりの高さだ。何だ、これを登るのか? 風雲たけし城か?

足が埋まって思うように登れない上、猛烈な風で全身砂塗れになるわ前も見えないわ。しかも相当腹が減っていた僕はフラフラで、本当の砂漠でもないのに行き倒れるかと思った。

砂丘から臨む日本海 何とか砂丘の頂上に到達。

登ったはいいが、いよいよすごい風でとても呑気に海なんか眺めていられない。もうバチンバチン顔に当たるわけ、砂が。ちょっとしたSMですよ、これは。

”砂が舞う”、略してSM。”砂で悶絶”でもOK。 なにがOKなのか。


4月30日(日) 13:20

近くにあったレストランで昼食。

食ったのはステーキ丼。非常に歯応えのある仕上がりだった。まあ、硬かったんだ、肉が、非常に。

噛み切れない肉をくちゃくちゃやりながら、ぼんやり考えていた僕は気付いたね、砂丘の真理に。

ここは、家族やカップルで来てこそ楽しい。

そう。気付けば周りはそんなのばっかりだった。それがね、非常に楽しそうなわけ、キャッキャキャッキャやってて。彼らにとっては、砂に足を取られるのも、突風に吹かれるのも、砂をかぶるのも、全部盛り上がる要素になるわけである。

そこをね、一人で行ったって、そりゃなるよ、風雲たけし城に。SMに。

そして、そのキャッキャやってる声が、場所柄ほとんど標準語じゃないのだ。関西弁とか広島弁、四国弁なのかな。それで僕の疎外感たるや、いよいよ全開。僕は今、ものすごくアウェイ。

そのあたりをね、今後行く予定の方はぜひ踏まえたうえで検討していただきたい。

そして14:15、岡山に向けてアウェイ脱出。

中国地方の道はすごい走りやすかった。道も比較的広く、きれいに整備されている所が多いし、交通量もそう多くない。運転マナーもいいし。今までにないほど順調に進んでいく。

そのまま17時前には岡山市街に突入。うん、いいペース。これなら今日はもう焦らなくても大丈夫だろう。

そう思ったのも束の間、市街に入ったら急に道がわかりづらくなった。道に迷い現在位置がわからなくなる。まずい、せっかくいい感じだったのに。過ぎていく時間、夕日色に染まっていく景色。やっぱり焦る僕。

お得意の一人相撲でございます。


4月30日(日) 17:55

「浜」と「沖」 岡山県早島町に着く。

重松清の小説「疾走」の舞台となった(と思われる)町。

僕はもともと小説は読まなかったのだが、友達に薦められて借りたこの作品に脳天を打ちぬかれガッツリはまり込み、わざわざ自分で買いなおし、それ以来他の小説も読むようになった。

そんな思い入れのある、特別な作品。映画では完全に裏切られたので、どうしても今回、自分の目でその舞台を見ておきたかった。

早島公園の小高い丘から、町を一望する。

この地では戦国時代後半から児島湾の干拓が始まり、隣接する藩同士で領土問題が絶えなかったという。そのへんの歴史的背景から来る住民の感情も作品のキーポイントになっている。

小説でいえば、駅、線路より手前が「浜」、奥の干拓地が「沖」となる。確かにこうしてみると、沖は格子状に畑などが格子状に区切られ、網のように道が通っている。

自分の中でその光景を想像していたものを、実際にこうして目の当たりにすると感慨深い。今、視覚と記憶が結びつき、鮮やかにイメージがリライトされてくる。もう一度小説を読み返してみたくなった。

問題は、当の小説が僕の手元から失踪してしまっていることである。


4月30日(日) 18:45

出発前にちょっとあたりを歩いて周る。

早島町は、昔ながらの町並みを残した、すごく静かで雰囲気のあるいい町だった。悠然とした時間が流れている感じがする。今回は残念ながら時間がなかったが、今度ゆっくり色々見て回りたいと思わせる町だ。

駅のそばで、おばあちゃんに話しかけられた。ちょっと話して、「今日はどこまで行くんだい?」 と聞かれたので、広島と答えると、「ひえぇ?!今から?」 と大げさに驚かれた。たいした距離じゃないと思っていた僕は少し面食らった。

だだ、おばあちゃんの驚きぶりは相当だった。そのせいで寿命縮めてたらごめんなさい。

バイクを発進させ、国道2号線に乗る。広島まではこの道をひたすらまっすぐだ。しばらく進むと青看板があり、見ると広島までは160キロとあった。

160かあ…。地図を見た感じで100キロ前後だと思っていた僕は、これを見て若干体が重くなった。なるほど、確かにこの距離ならおばあちゃんも驚くかもしれない。というか、けっきょく今日も到着は完全な夜だ。

まあ、仕方ない。少しでも早く着けるように先を急ぐ。幸い、2号線はバイパスがけっこうあり、高速道路に近い感じで進むことができた。

そして、僕の運転も少しずつ荒くなってきていた。

9:25。この日の宿である広島市内のユースホステルに到着。広島の夜。うまいお好み焼きの店でも探して、温泉に入ってゆっくりしようなんて思っていたが微妙な時間だ。

とりあえず温泉は諦めてユースの浴場で済ませ、せめてメシだけでもいいもん食いに行こうか。いちおう門限なんかあるのかフロントに聞いてみた。

「門限も、お風呂も、11時までです」

あるんだ。しかもこれは厳しい。市街地まで行ってゆっくり食事をしてたのでは風呂は無理だ。というか下手したら締め出されかねない。どうしよう。風呂は絶対入りたいし、お好み焼きだって食べたい。え〜、なんとかならんかなあ。

解決策は近くにあるコンビニしかないという現実は決して受け入れたくなかった。


4月30日(日) 11:40

けっきょくコンビニでしょぼいお好み焼きを買って食べ、風呂を済ませた。

部屋に戻って寝る準備に入る。この夜、相部屋になった二人は、それぞれ静岡と愛知から来たという、共に20代のライダーだった。お互いに情報交換を交わす。

一人はあと2、3日かけて福岡まで行き、もう一人は広島を観光して戻るという。僕が明日中に鹿児島に行き、フェリーで沖縄へ向かうと言うと、「上には上がいるなあ」 と、二人とも驚いていた。

ただ、彼らの表情に滲み出ていたのは明らかに感心という名の感情ではなかった。

しばらく話して、みんな明日も早いということで、それぞれ床について消灯しようとした。だがちょうどその時、僕らの部屋に変なおじさんが入ってきた。

いちおう相部屋の宿泊客らしいのだが、なぜかスーツでユースホステルには似つかわしくない。そして酔っ払っているのだろうか。とにかく彼を構成するすべての要素が怪しい。

「みんな日本人?よかったぁ」

そう話すその本人の日本語がおぼついてない。

「∞∴♂&〒★☆やん?」

なにを言ってるかほとんど聞き取れない。シャブ中か。

かろうじて聞き取れたのは 「駐屯地」、「ベトナム」、「駐屯地」。

駐屯地に一体何が。



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