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 三つ目

 

〜これは、実際におこった背筋も凍る出来事です。〜


その日の夜中、私は不意に「何か」の物音で目を覚ました。

目を開けると、いつもと変わらない、自分の部屋の景色が広がっていた。だが、その日は何か「いつもとは違う空気」のようなものが漂っていた。何か、生暖かいような、そして、何者かに見つめられているような・・・

私が、またうとうとと眠りにつこうとしていると、壁の向こうから物音が聞こえてきた。私はぎょっとした。

ここは角部屋である。その壁の向こうには何もないはずだ。外の物音が聞こえてきたのか?いや、それは紛れもなく部屋の中から出る「生活音」であった。

「なぜ・・・」不思議に思っている私の耳に、次は人間の声のようなものが飛び込んできた。はっとして耳を澄ます。何かの聞き間違えか・・?

しかし次の瞬間、地の底から響くような醜く歪んだおぞましい声が、もはや聞き間違えとはいえないほどはっきりと聞いて取れた。

 

「みつめはあぁ〜」

 

「・・・!!」 わたしはその声を聞き、戦慄した。

「みつめはあぁ〜」
なおもその声は続く。 その声といっしょに、「ぼん、ぼん・・」と、何かを叩くような低い音が聞こえてくる。

いったいなんだ?みつめ・・・?「三つ目」と言っているのか?いったい何を意味しているのだ?「そういえば・・」恐怖に満たされた私の脳裏に、ひとつ思い当たることが浮かんだ。

ここは、まだ立てられて一年も経っていないマンションである。私も、順番待ちをしてようやく入ることができた、非常に人気のあるところだ。だが、この部屋に私の前に住んでいた人は、た ったの半年でこの部屋を出ているのだ。たったの半年で・・・。

もしや、それには何か理由があったのでは・・。この謎の声と何か関係があるのではあるまいか・・。この部屋には、私のほかに得体の知れない「何か」が潜んでいるのか・・・。

そんなことを考えているうちに私はいつのまにか眠りについていた。気がつくと、朝になって いた。いつもとなんら変わらない朝・・・。昨日のあれは夢だったのか?まあ、いい。私は、いつも通りに家を出た。

 

その日の夜中、レポートを書いていた私は、昨日の出来事などすっかり忘れていた。しかし、私は再び恐怖のどん底に突き落とされることとなる。

 


「みつめはあぁ〜」

 

「・・・!!」 再び、あの声が聞こえてきたのである。それとともに「ぼん、ぼん」という例の音も聞こえてくる。

私は、恐怖のあまりもはや動くことすらかな わなかった。さらに今回は、何人かの人が騒いでいるような声も聞こえてくる。地縛霊たちの宴か・ ・?しかしよく聞いてみると、その声は隣からではなく、上のほうから聞こえてきているようであっ た。

その瞬間、すべてが氷解した。

 

「ぼん、ぼん」という音は、よく聞くとギターの音であるようだ。上の階の住人が友達を呼んで歌っているらしい。サザンオールスターズのヒット曲で 「TSUNAMI」というのがある。そのサビの部分はこうだ。

 


見つめ合〜うと〜すな〜おに〜・・・」

 

まったく、音痴もここまでくると公害だ。本人はさぞうまく歌えていると思っているのだろう、ギターなんぞかき鳴らして、とても気持ちよさそうである。 もちろん、 そのギターも聞くに堪えないひどいものである。

一緒にいる人も、はっきりと注意してあげればいい ものを。そのほうが本人のためだろうに・・・。だいたい夜中にやるな。

すっかり気分を害された私は、レポートを切り上げ、床につく。その歌声を子守唄にしながら・・・。

今回もまた提出期限に間に合わないだろう。私の恐怖は、いつしか怒りに変わっていた。湧き上がる憤りを抑えつつ、私は眠りにつく。

そんな私のベッドは・・・北枕だ。

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